定期的な対面の機会
コミュニケーション技術の向上により、リモートファーストで働くチームが増えてきた。この傾向は、Covid-19パンデミックの強制的な隔離でさらに加速した。しかし、リモートで活動するチームであっても、対面の集まりから恩恵を受けられる。数か月に一度はそうした機会を持つべきである。
リモートファーストのチームでは、全員が別々の場所にいて、コミュニケーションはメール、チャット、ビデオ、その他のコミュニケーションツールによって行われる。これには明確な利点がある。世界中からチームメンバーを採用できるし、育児や介護などをしている人たちにも参加してもらえる。また、フラストレーションのたまる通勤という無駄な時間を、生産的な時間や休息の時間に変えることができる。
しかし、リモートワークが得意になっても、現代のコラボレーションツールが便利になっても、チームのメンバーたちと同じ場所にいることに勝るものはない。人と人との交流は、対面のほうが常に豊かである。ビデオ通話は業務的な連絡に使われるため、適切な人間関係を築くための雑談の時間がほとんどない。そうした深いつながりがなければ、ちょっとした誤解が深刻な人間関係の問題につながってしまう。直接話せば何でもない状況でも、チームが足を取られてしまう可能性がある。
リモートファーストで成果を上げている人たちに見られる共通のパターンは「定期的な対面ミーティングを必ず実施している」だ。こうしたミーティングでは、みんなで一緒にやったほうがうまくいく仕事を計画する。リモートワークは一人で集中力を必要とするタスクに効果的である。また、現代のツールを使えば、リモートでペア作業も可能である。しかし、多くの人たちから大量のインプットや迅速なフィードバックを必要とするタスクの場合、全員が同じ部屋にいたほうがはるかに簡単に行える。ビデオ会議システムでは、深いインタラクションを生み出すことはできない。コンピュータの画面を見ながら他の人が何をしているのかを把握するのは消耗する。仕事の合間に一緒にコーヒーを飲みに出かける機会もない。製品戦略に関する議論、システムアーキテクチャの探求、新しい分野の開拓などは、チームが同じ場所に集まったときに行うべきタスクである。
人々が効果的に協力して働くためには、お互いを信頼し合い、どれだけ頼りにできるかを認識する必要がある。信頼関係をオンラインで築くことは難しい。同じ部屋にいるときのような社会的な手がかりがないからだ。対面の集まりで最も価値のある部分は、予定されていた仕事ではなく、コーヒーを飲みながらの雑談や、昼食時の和やかな雰囲気である。仕事以外のインフォーマルな会話が、仕事のやり取りを効果的にする人間的なつながりを築くのである。
これらのガイドラインは、対面の内容がどうあるべきかを示唆している。一緒に働くことは、それ自体に価値があるだけでなく、チームの結束を強める重要な要素でもある。したがって、みんなが対面で集まれる日を確保して、遅延の少ないコミュニケーションが必要な仕事に集中すべきである。また、休憩、インフォーマルな雑談、オフィスの外に出る機会に多すぎると感じるくらいの時間を割り当てるべきだ。私の大嫌いな「チームビルディング」は避けたい。定期的に対面で仕事をしている人たちは、みんなが元気になり、数週間は効果的に仕事ができると強調している。
リモートチームは遠く離れた場所に分散しており、メンバーの移動に何時間もかかることがよくある。そのようなチームで私がよく使うルールは、2〜3か月ごとに1週間ほど集まるというものだ。チームが経験を積んでいれば、集まる頻度を減らすこともあるだろうが、対面で集まるのが年に2回未満のチームだと心配してしまう。チームのみんなが同じ都市にいて、通勤を減らすためにリモートファーストにしている場合は、短時間で頻繁に集まることもできるだろう。
こうした集まりは、オフィススペースを考え直すきっかけにもなるだろう。パンデミック以降、オフィスが利用されなくなったという話を何度も耳にする。オフィスは日常的なワークスペースとしての役割ではなく、不定期にチームが集まるための場所になる可能性がある。チームが集まりやすい柔軟で快適なオフィスが求められるようになるだろう。
旅費や宿泊費を懸念する組織もあるだろうが、それはチームへの投資と考えるべきである。対面の機会が減ると、チームが行き詰まり、間違った方向に進み、対立に悩まされ、モチベーションの低下につながる。こうしたことを踏まえると、飛行機代やホテル代を節約することは、見せかけの節約である。
さらに詳しく知るために
リモートファーストはリモートワークのひとつの形態である。リモートワークのさまざまな形態とトレードオフについては、Remote versus Co-located Workで考察している。
Thoughtworks社は、約20年前に最初にオフショア開発センターを立ち上げたときに、リモートチームの定期的な対面の集まりの重要性を学んだ。このことがUsing an Agile Software Process with Offshore Developmentで紹介しているプラクティスにつながった。
リモートワーク、特にタイムゾーンをまたがる場合は、非同期的なコラボレーションの重要性が高まる。同僚のプロダクトマネージャーであるSumeet Mogheは、こうした方法について著書『The Async-First Playbook』で詳しく解説している。
ソフトウェア企業のAtlassian社は、完全なリモートワークに移行したあと、その体験をレポートとして公開している。彼らは年に3回ほど対面で集まるべきだと学んでいる。Claire Lewが2018年にリモートファーストのチームを対象にアンケート調査を実施した結果、回答者の4分の1が「年に数回集まっている」と答えている。37Signals社(現Basecamp社)は、20年近くリモートファースト企業として運営しており、年に2回ミートアップを実施している。
謝辞
Alejandro Batanero, Andrew Thal, Chris Ford, Heiko Gerin, Kief Morris, Kuldeep Singh, Matt Newman, Michael Chaffee, Naval Prabhakar, Rafael Detoni, Ramki Sitaraman は、草稿について社内メーリングリストで議論してくれた。