http://www.martinfowler.com/bliki/RoysSocialExperiment.html

私たちは、ThoughtWorksのことを「ソフトウェアアプリケーション開発企業」だと言ってる。 時には、その価値観や他社との差別化について語ることもある。 しかし、そうしたことはすべて的を射ていない——ThoughtWorksとは本来、企業ではないのだ。

ThoughtWorksとは、Royの「社会的実験」なのである。

Roy SinghamはThoughtWorksの創業者だ。 彼は、自分の作りたい企業が本当に作れるのかを確かめるためにThoughtWorksを起業した。 それが今も続いているのである。 この会社には、みんなが彼に「できるわけがない」と言ったことが数多く存在している。

  • 有能な人しかいない会社なんて無理だよ。有能な人が利用する普通の人もいなくちゃダメだ。
  • 頭の良い奴らは金儲けに興味がない。だから、頭の良い奴ばかりの会社は生き残れないよ。
  • ビジネスってのは人のいい奴が損をする厳しい世界だぜ。何か理由でもなけりゃ、従業員や顧客にいい顔する余裕なんてないんだ。
  • 有能な人はみんなとうまくやっていけないよ。理屈ばかりこねて、ジコチューなんだから。
  • 大企業には強力なマネジメントの仕組みが必要さ。
  • 頭の良い奴らはB級学生に管理させなきゃいけない。頭の良い奴らは理想主義に走り過ぎる。現実的な判断をくだせるのは貪欲なB級学生だ。
  • 長期的にやることはうまくいかない。
  • 会社の財務や業務内容を社内に明らかにしてはいけない。社外にだなんてとんでもない。どうせ会社が大きくなったらそんなの続けられないんだから。
  • 弱点を露わにしちゃだめだ。社外の人間には特にね。
  • 国際企業になるということは、弱小国の人々を利用するということだよ。
  • 会社を脅かすような権限を現場の人間に与えてはいけない。
  • 文化は二の次(そんなの長持ちしない)。優れたビジネス モデルこそが必要だ。

ThoughtWorksのやり方の多くは、こういった「通説」とはまったく逆だ。 頭のよい人だけ雇用して、有能な人材ばかりにしようとしている。 また、フラットでダイナミックな構造をもつ国際企業へと急速に成長しつつある。 現場の人間には手順ではなく、情報と大まかな方針を与えて、判断は各自に任せている。 Royの考えの多くは、Visaの創業者であるDee Hockの影響を受けている。

多くの企業はビジネスモデルによって定義されるが、 ThoughtWorksは社会モデルによって定義されている。 正しい社会モデルを持った組織はビジネスモデルを持つ組織よりも優れている、というのが我々の信念である。 すべてがものすごい速さで変化する今日では、ビジネスモデルはそう長くは続かない。 これは今後、ますます重要となっていくだろう。

我々は自ら設定した理想に忠実に従おうとしている、と言いたいわけではないが、 Royの夢見ている企業になろうという「共通の願い」はあると思っている——少なくともRoyの機嫌がいいときは。

Royにとっては「実験」を開始しただけなのかもしれないが、 私は(みんなと同じように)この実験に惹かれた。 ソフトウェア開発における「いちばん大切なのは人」という基本的な考えにマッチしている。 あなたは、給料を得ながらも楽しく仕事ができるような会社にしているだろうか? 世界中から有能な人が集まり、官僚的ではなく、よくある社内政治もない会社になっているだろうか? その会社では、いい人のまま成功できるだろうか? ありふれた言葉でしかこの状況を表せないのが辛いが、 私が、居心地のいい成功した独立コンサルタントの立場を捨ててまでこの実験に参加したのは、 この「あり得ないミクスチャ」が理由だったのだ。