VisualChannel
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1990年代の終わり頃、 私はプレゼンテーションでスライドを使わないと決めた。 見栄えのしない箇条書きのプレゼンテーションに飽きたのだ。 それから約10年間、基調講演ではスライドを一切使っていない。 しかし、去年あたりから、またスライドを使い始めたのだ。 同僚のNeal Fordからの影響が大きい。 彼のスライドは、講演のいい味付けになっている (彼のプレゼンテーション技術を伝える本を共著で執筆中のようだ)。 スライドを使い始めてから、 どうすればスライドを効果的に使えるかを考えている。 私が実践している原則は、 講演の言葉を音声チャンネルとした場合に、 スライドをそれに対する視覚チャンネルと考えることである。 チャンネルを分けて考えることで、 プレゼンテーションの問題を回避できるのではないかと思っている (問題の多くは平凡な箇条書きのスライドが原因だ)。
【図中】 「(計画駆動)ソフトウェア開発は、確かな要求仕様があるかどうかで決まります」
プレゼンの達人は箇条書きを避けよと指摘する。 では、何を使えばいいのだろうか。 私が視覚チャンネルについて考えるときは、 言葉に合う視覚要素は何なのかを考えている。 つまり、伝える手段は違っても、伝えることは同じでなければならないのだ。
同じことを異なる手段で伝えるには、スライドに文章を入れないことだ (少なくとも熟読してしまうような文章は避ける)。 箇条書きがダメな理由がこれだ。 ただし、単語は有効だと思う。文章ではなく単語だ。
箇条書きプレゼンテーションの後継は、写真を使ったプレゼンテーションだ。 「Stock Photosは21世紀の箇条書きだ」と言ったらウケた。 写真が悪いということではないが、 話し手の言葉と合っていないことが多い。 長い時間かけて講演に合っていない写真を インターネットで探しているのではないかと思う (それから、写真を使うときは必ず撮影者を記名すること)。
私がよく使っているのは簡単な図だ。 簡単な図(と単語)を並べて、 視覚的に使うことで、 私の言葉を補足し、 より良い説明としてくれるのではないかと思っている。
私のTalkLet(訳注:対話しながら進める講演のことらしい。) 「アジャイルのエッセンス」から例を示そう。
【図中】
ソフトウエア開発 ---決まる---> 確かな(?)要求
↑
要求仕様の策定 ┌─┘固める
┌─┘
変更審査委員会
署名
この講演では、 アジャイルの創設者が反対する 計画駆動ソフトウエア開発についての話をした。 実際のスライドの単語は講演日によって違うが、 基本的には以下のことを示している。
(計画駆動の世界では、)
- ソフトウェア開発は、確かな要求があるかどうかで決まる。
- 多くの場合、確かな要求は疑わしい。
- 計画駆動のコミュニティも確かな要求の難しさは分かっている。そこで、要求を固めようとする。
- そのための技術には、要求仕様の策定、変更審査委員会、署名などがある。
講演では、最後の技術については口に出さない。スライドで示すだけだ。 例を一覧で示すのは視覚チャンネルに適している。
ここではスライドを1つの図として紹介したが、 実際に講演するときは、複数のスライドや要素を使って構成し、 講演のタイミングに合わせて表示するようにしている。 もうひとつの視覚チャンネルの使い方は、動きを使うことだ。 スライドでアニメーションを使うのはよくあることかもしれない。 しかし、使いすぎると、 プレゼンテーションソフトの機能を紹介するだけになってしまう。 効果的に使うのは構わない。 私は、言葉に合ったものを選び、 アニメーションが意味を豊富に含んだ視覚チャンネルになるようにしている。
ここで示した例は、アニメーションを使ったあとのものだ。 これとよく似ているが、最初は前述した部分(ソフトウェア開発は、確かな要求があるかどうかで決まる)だけを示していた。 私は、フェードを使ってスライドを移動することが多いが、 アジャイル手法について話すときは、3Dキューブを使っている。 アジャイルの世界に入り、視点が変わったことを示すためだ。 このトランジションは、 見た目に楽しく、 私の伝えたいことをうまく伝えられると思っている。
プレゼンテーションでアニメーションが使えるのだから、 視覚チャンネルの役割を果たすのであれば、是非使うといいだろう。 その役割とは、 私の言葉を支援する活動に注意を向けるものであり、 注意をそらすものであってはならない。