http://martinfowler.com/bliki/FixedScopeMirage.html

多くの企業はスコープとコストが固定された契約書の作成を好む。 なぜなら、その方がリスクを軽減できると考えているからだ。 支払い義務は契約書の価格により定められており、 満足のいくソフトウェアができなかった場合、 それ以上のコストを支払わなくても済むというのだ。 まことに香ばしい幻想である。

独立コンサルタント時代、私はこういった契約は避けるよう常にクライアントに言ってきた。 理論上はうまくいきそうだが、実際にはいろいろと弊害が出てくる。

まず、コストにだけ注目すると、 お釣りが足りないよ問題(short-changing the financial issues)に出くわす。 なぜソフトウェアを作ってもらうのかというと、 ソフトウェアがビジネス価値を提供してくれるからである。 つまり、支払ったコストよりも多くのビジネス価値が得られるというわけだ。 価値を生み出さないのに、ソフトウェアなんか作るわけがない。 ソフトウェアが満足いくものでなければ、支払ったコスト以上の金銭的ダメージを受ける。 得られるべきビジネス価値が得られなかったという機会損失が発生するからだ。 コストは想像以上に高くつくのだ。 契約した企業に支払ったお金だけでなく、 プロジェクトに関わった人たちの時間も無駄にすることになる。 私はあるプロジェクトが破綻してしまったのをよく覚えている。 クライアントは支払額についてその契約企業を訴えたが、 多額のコストがかかってしまった。 結局、弁護士だけが利益を得たのではないだろうか。

この香ばしい幻想をズタズタにしてくれるひとつの代物は、請負業者によって明らかになる。 スコープを固定した契約とは、請負業者が要求を確実に理解した場合にのみ可能である。 しかしその理解は非常に希薄であり、欠陥をあらかじめ見込んでおいた方がいいだろう。 そのような業者はわざと低価格を提示してくる。 変更要求部分で利益を得ることが織り込み済みなのだ。 たしかに、セールスマネージャーやアカウントマネージャーに対し、 そのプロジェクトでどれだけの変更要求を受けることができるかを前提にするよう奨励している企業もある。

これが、スコープとコストを固定した契約が顧客にとって悪いと思う理由だ。 以上のことから、ThoughtWorksではこういったモデルをできるだけ回避するようにしている。 アジャイル手法では、固定価格の契約は可能である。 しかし、スコープを固定にするのは賢明ではない。