http://martinfowler.com/bliki/ScopeLimbering.html

アジャイル開発の基本的な教義のひとつに 「要求変更は予測できないが、喜んで受け入れる」 というものがある。 ThoughtWorksのような外部の会社がクライアントの仕事を行う際、 この教義はとある課題を突きつけてくる。 クライアントの多くは、 スコープが完璧に決められた固定価格での契約を好む。 固定スコープの幻想を夢見ているからだ。 しかし、固定スコープでの契約とアジャイル開発とは全く折り合わない。 では、我々のような企業はどのようにすればすればよいのだろうか?

我々が「柔軟なスコープ(Scope Limbering)」と呼んでいるものが 去年あたりから非常にうまくいっている。 最初は固定スコープでの契約からスタートしたが、 アジャイル開発が固定スコープの幻想を打ち砕く様を理解してもらえるよう クライアントと共に一丸となって仕事をしている。

説明を分かりやすくするために具体的なクライアント名を決めよう。 ここでは Nebbiolo と呼ぶことにする。 よくあることだが、他社が失敗したので我々がこの仕事に参画した (失敗したのはみんながよく知ってる会社だが、触れないでおこう)。 その会社は長時間かけてクライアントの要求をかき集めたようだが、 成果物(コード)となるものはどこにもなかった。 クライアントは莫大な時間とお金を費やして詳細な要求書を得たが、 それを完成させることができない開発業者たちの無能さに苛立っていた。 そのためか、その詳細な要求書に沿った固定スコープという取り決めにひどく固執していた。

我々はその要求書を見て、50万ドルで構築できると見積もった。 固定スコーププロジェクトに果敢に取り組むひとたち同様、 我々もこの見積もり結果にバッファを追加した (今回は倍の100万ドルになるまでバッファを追加した)。 これでもまだオジリナルの見積もりよりも少なかった (我々はより多くの賃金を頂いているが、 生産性が高いため、実際の仕事は少なくて済む)。

詳細かつヘヴィーで、きちんとレビューされた要求書があっても、 要求の変更は次々とやってくる。それでも我々はショックを受けなかった。 それぞれについて変更のスコープを見積もり、 どれだけコストがかかるかを見つけ出した。 だが、その変更によってクライアントに課金することはしなかった。 ゆっくりだが確実に、要求変更はバッファを食べ尽くしていった。 6ヶ月余りが過ぎ、バッファは完全に食い尽くされてしまった。 我々はこの間、常に Nebbiolo に対してオープンであったため、 これ以上変更を受け入れる金銭的余裕がないことを告げても彼らは驚かなかった。 この間、我々は Nebbiolo と共に仕事をしており、 彼らとの間に信頼関係が生まれていた。 必要となる要求変更をカバーするのにもう50万ドルかかったが、 追加分のお金に関しては全く問題なかった。

すべてが終わり、 Nebbiolo は固定スコープのアプローチが幻想だということに理解を示してくれた。 そして、よりフレキシブルな課金スキームを使って、 将来プロジェクトを一緒にやることを我々に約束してくれた。

この事例のキーポイントは、 最初から企業間の関係を対立的なものではなく、 協力的なものにしようとした点にある (我々はこのような事例を半ダースほど持っている)。 固定スコープによる契約の最大の問題点は、 クライアントと受注業者とをすぐに対立関係に仕立てあげ、 何か変更が起こったときにどっちが金を払うんだと争わせる点にある。 アジャイル手法は「競闘」を「協調」に置換できるかどうかにかかっている (契約交渉よりも、ユーザとの協調)。

実際の作業が初期見積もりの3倍になってしまうことは、 我々の業界では珍しいことではない。 これは、我々の見積もりが下手だからということではなく (まぁ下手だったとしても、だ)、 正確な要求を獲得するのが難しすぎるからだと私は思う。 多くの業者は、最初に安値を提示して、 後からスコープの変更で利益を得るようなことをしている。 しかしこの手法では、クライアントとの関係が悪化してしまう (それにこれはすべての産業で悪評高い)。 この Nebbiolo の事例は、 よい形で関係を保つためにいろいろ試行錯誤したひとつのやり方に過ぎない。 すべての産業のためにも、我々はもっと何かが必要だと思っている。